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東京高等裁判所 昭和49年(ラ)190号 決定 1974年6月17日

抗告人

福場勝美

右代理人弁護士

義江駿

鈴木武志

相手方

白金解

主文

原決定をいずれも取り消す。

抗告費用は相手方の負担とする。

理由

第一申立及その理由

一、抗告人は主文同旨の決定を求め、次のとおり申し立てた。相手方を債権者、申立人を債務者とする東京法務局所属公証人山口一夫作成昭和四八年第一、四〇三号金銭消費貸借契約公正証書を債務名義として相手方は東京地方裁判所執行官に委任し、昭和四九年一月一二日申立人の有体動産に対する強制執行をおこなつた。(昭和四八年(執イ)第七〇三五号)

二、申立人は右公正証書の執行力を排除するため、相手方に対し請求異議の訴(東京地方裁判所昭和四九年(ワ)第三一三号)を提起すると共に強制執行の取り消しを申立て(同裁判所同年(モ)第七四一号)、昭和四九年一月一九日「前記請求異議の訴の本案判決があるまで前記公正証書に基く強制執行を停止する。」旨の決定をうけ、この決定は同年三月九日相手方に送達された。

三、相手方は同年四月二日前記有体動産に対する強制執行の申立を取り下げ、東京地方裁判所執行官より前記公正証書の返還をうけ、この公正証書の執行力が停止されていることを知りながら、これを債務名義として東京地方裁判所に頭書の債務差押及び転付命令の申請をなし、前記強制執行停止申立事件について申立人が供託した保証金三五〇、〇〇〇円の国に対する取戻請求権の差押及び転付命令をうけ、この命令は国に対し同月六日、申立人に対し同月九日にそれぞれ送達された。

(右債権差押及び転付命令の申立をなした相手方代理人鈴木紀男弁護士は、右申立に先立ち前記請求異議事件の記録を閲覧しており、この点からも相手方が前記公正証書による強制執行が停止されていることを熟知していたことは明らかである。)

四、債務名義の執行力が停止されている間は、この債務名義によるすべての強制執行は許されないから、原決定は違法である。よつてその取り消しを求める。

第二当裁判所の判断

一、前記第一の一、二及び三(但しかつこ内に記載した事実のうち鈴木紀男弁護士が記録を閲覧したとの点を除く。)の事実は本件記録によつて認められる。

二、如何なる種類の強制執行も、執行力が停止されている債務名義によつて行うことが出来ないことは明らかであるが、債務名義そのものには執行停止の事実が記載されないところから債権者が当該債務名義を利用し、その事実を知らない執行機関に強制執行を申請した場合、執行がなされることはやむをえないけれども、差押後直ちに完了しない強制執行においては、通常、債務者はこの違法な執行から救済される機会をもつものである。しかしながら、「審尋を経ないで発付される債権差押及び転付命令に対して不服のある利害関係人は、まず民事訴訟法五四四条一項の異議申立をなし、この裁判に不服のあるものは、さらに同法五五八条の即時抗告をなすべきものであり、債権差押及び転付命令が債務者及び第三債務者に送達されたときは、これによつて執行手続は終了するから、異議申立は許されず、従つて即時抗告は許されない」という見解に従うかぎり、債権差押及び転付命令については前記のような違法な強制執行が救済される方法は事実上とざされる結果となる。

三、右の結論は、実際上も、極めて不当である。のみならず、法解釈上も、債権差押及び転付命令は、即時抗告に服し(民事訴訟法五五八条)、即時抗告期間中及び右抗告申立後これに対する裁判があるまでは、右命令はまだ確定していないと解すべきであり、従つて、その限りにおいて、強制執行はなお終了していないものというべきであつて、その間に、抗告裁判所に執行停止決定正本が提出された(右正本が当裁判所に提出されたことは記録上明らかである。)ときは、抗告裁判所としては、あたかも、執行裁判所が債権差押及び転付命令を発する手続中に執行停止決定正本の提出を受けたにかかわらずこれを看過して、同命令を発した場合と同様に、右命令は、違法として取り消さるべきものである。

よつて本件抗告は理由あるものとみとめ、原決定をいずれも取り消し、抗告費用の負担については民事訴訟法第九五条第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(白石健三 小林哲郎 間中彦次)

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